詰将棋解析学

記・佐藤喜一郎(1992年入学)
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2.伊藤宗看・作(将棋無双第九十四番)

 内藤国雄九段が「古今の難書と呼ばれる宗看百番の中でも最難解の大作」と激賞する作品だが、一方で盤面の駒の半数以上がさばけずにそのまま詰め上がりに残る所からあまり高くは評価しにくいと言う意見も多く聞かれる。いったい鑑賞者はこの作品をどう受け止めるべきなのだろうか。
 ここでは単に手順を追うだけでなく、変化・紛れを徹底検証することで作品の真価に迫りたいと思う。
 問題図、盤面の43飛と31銀が無けれぱ43桂で簡単に詰むのだが、それがヒントになるかどうか?
 初手、正解は41金と捨てる手である。
 いや、「作者が意図した初手」と言うべきか。この図を眼前にした人なら百人中百人がまず 42銀成を考える筈である。
 それでは本当に詰まないのだろうか。
初手より42銀成、同角。(51図
あり余るほどの強力な持駒! 何とかなりそうなものだが。
 とりあえず62金と打ち込んでみる。これは52にもう一枚効かせる意味で、41玉なら52金打、32玉、42飛成で簡単だ。
 そこで62金には素直に同歩、同歩成、同銀と進める。(52図
持駒が強力とは言っても玉方57の飛車の守りも強く単純な攻めは効かない。
 (52図)で素朴な52金は同飛成、同桂成、同玉。(53図
64桂と打つくらいだろうが、43玉と飛を取られながら上部に抜けられた形は絶対詰まない。
 (52図)に戻り、攻め方にかなり都合のよい手順を進めて危ない筋がないかどうか調べてみよう。
 (52図)以下63桂、同銀、62金、同玉、42飛成、52歩合で(54図
 (54図)からは51角と打ち、71玉、72桂成、同銀、62金、81玉、72金、92玉、82金打、93玉、83金、同桂、82銀、92玉、83歩成、同玉、73角成、92玉、84桂迄で詰む。(55図
 どうだろうか。(52図)は全く脈が無いと言う訳ではないのだ。
 (52図)から63桂に41玉とよけるのも31金と打ち(56図
同玉、21歩成、同玉、22銀、同玉、33金、12玉、22金打、13玉、23金引、同角、同金迄。(57図
 また(52図)から63桂、61玉も以下71金、同銀、同桂成(58図)51玉、62銀!、41玉、42飛成、同玉、33金、41玉、42金打迄。(59図
以上、意外なほど詰み筋がたくさんある。こうなると玉方の応手を真面目に考えなければならない。
 (52図)から63桂、同銀、62金に41玉!(61図)はどうか。
 31金は(56図)と比べ持駒の金が一枚少ないので詰まない。42飛成、同玉も33金に53玉と抜けられて駄目だ。(58図)解説中の62銀が妙手だった所以である。
 (61図)は不詰と思う。
 もっと明確な不詰筋がある。(52図)から63桂、同銀、62金、同玉、42飛成に73玉(62図)。51角は64玉。こうなると上部の守備が猛烈に手厚い。
 結論として(52図)は不詰とする。
 先に(62図)が見えていた人にはここまで無駄な解説に思われたかもしれないが、作者が初手をカモフラージュするために巧妙な演出をしている事を見てもらいたかった。

 問題図(再掲B図)に戻ろう。
初手42飛成、同角、43桂、41玉も42銀成か52金しかないのでは結局上部に逃れられて失敗となる。
 と、ここまで見てくれば、初手41金(63図)に「鍵穴に合鍵を差し込んだような感覚」が得られる事だろう。
 山のような持駒があり、かつ守備駒の金を簡単に取れる状況にありながら、相手駒の目いっぱい効いている空間に金をタダ捨てる手が唯一の有効な手だとは。
 作者は、どれほど大袈裟な駒配置になろうとこの一手をどうしても成立させてみたかったのだと思う。
 (63図)、同玉はそこで52金と打ち、31玉、21銀成、同玉、12銀!(64図
 同玉、24桂、21玉、12金、31玉、42飛成、同角、22金打迄。
 こういう変化を瞬時に詰ませるように訓練しておく事は実戦にも必ず役に立つのでほないかと思う。
 次、初手41金に同角の場合。(65図
 これは本局で一番簡単な変化。42飛成、同角、43桂まで3手詰。
 よって41金には同金と取る。(66図
 飛銀のどちらかを消去したくなるが、42飛成、同金、43桂、41玉はまたも31の銀が邪魔で詰まない。以下42銀成、同角は57の飛が働いてきて失敗。
 (66図)で41飛成は同角で不詰。
何と言うか、実に上手く出来た図である。 (66図)から42銀成と銀の方の消去を計ったのが(67図
 同角と応じられた(68図)が実は本局最大の難所。じっくり調べよう。(43飛が無ければ1手詰なのに…)
 (68図)何はともあれ62金と打ち込むしかない。
 対して普通は同歩、同歩成の進行を考える所だが、その前に62金、同銀、同歩成(69図)の変化もなかなか厄介。
 62同玉は73銀!、同歩、72金、51玉、63桂。
 62同歩は63桂、同歩、61金!、同玉、63飛成、51玉、62銀。
どちらもすぐに詰ませられましたか?
 そう言う訳で(68図)以下は62金、同歩、同歩成(70図
 また応手に悩む。まず同銀から。(70図)以下62同銀、63桂、61玉。(71図
 上の手順で63桂に同銀ほ61金、同玉、63飛成。
 (71図)、まだ大変そうだが手は限られている。71金と打ち込み、同銀、同桂成、同玉、(51玉は61成桂、同玉、63飛成)72桂成、同玉、73銀、(72図)81玉、91香成、同玉、92歩。(73図
 この92歩を省略していきなり82銀成と捨てると、同玉、83歩成、81玉、93桂、91玉で打歩詰。
 (73図)以下、同玉、93歩、同玉、85桂、92玉、(74図)82銀成、同玉、83歩成、91玉、(81玉は82歩、91玉、92と)92歩、81玉、93桂不成!、71玉、73飛成で詰む。
 玉を呼び込んで85桂と押さえておく所は実に芸が細かい。
 (72図)で71玉は72歩、81玉、91香成、同玉、82銀成、同玉、83歩成、81玉、71歩成、91玉、92と、84桂。(75図
 改めて、この作品に取り組むと相当実戦に役立つのではと思わされる。

 ・・・(70図)での応手を考えていたのだった。
 (70図)以下62同玉は61金、同玉、63飛成、(76図)62合、72桂成、51玉、43桂。こちらは簡単でした。再三登場する61金が印象的だ。
 以上により、(67図)の42銀成に同角は詰む事がわかった。
 今度は42銀成に同金を検討してみよう。(77図
 何のことはない、(77図)は問題図から31銀が消去された形である。こういう時は上手く行っているなと感じるものだ。最初のヒント通り飛車の方も消去出来るだろうか?
 もう一度41金とぶち込む!もっともここでは他に有効な手も見当たらないが。(78図
同金と取られた(79図)は詰キストの心臓がバクバクする局面だ。ここで42飛成!(80図
 同金は当初のねらい通り43桂。同玉も33金。序盤に掛けた比重を考えれぱ、これで11手詰が正解でも何も文句ない所である。
 実際には(78図)で同玉が残っている。(81図
 52金の一手に31玉、42金とし、22玉には33歩成、13玉、23と、同角、14金、(82図)12玉、23飛成、11玉、13竜、12銀、33角で簡単。
 すまん、(83図)は上の13竜の所で21竜と切り・同玉・32銀・11玉となった場面。これでも33角以下詰むが、余計だった。
 そう言った.訳で、(81図)以下は52金、31玉、42金、同角となる。(84図
 ここまで随分検討して来たがまだ10手しか進んでいない。ふうー。疲れた。
 (84図)以下21歩成、41玉、31と、同玉、22銀、同玉、42飛成、32歩合。(85図
 31角は23玉。33金は13玉で失敗。
 33歩成、13玉、23金、同角、同と、同玉、43竜、33金合、…角2枚を持ちながら上部脱出を防げない。(85図)では33角と打つしかないようだ。
 対して12玉は22金、13玉、14歩、同玉、23角。(86図)で詰む。(85図)からは33角、23玉、24金、12玉。(87図
 筋が掴みにくい。第一感の11角成、同玉、31竜は21銀で完切れ。
 (87図)では少し工夫して22角成、同玉、33歩成、21玉、32と、同角、33桂、11玉、31竜。(88図
 21に一枚効かせて切れ筋を避ける巧妙な手段。
 (88図)で21歩は二歩で打てない。桂合が効けば詰まないのだがあいにく売り切れ。結局、角金銀の合駒しかないので同桂成で簡単に詰むのである。
 (87図)からは故に22角成、同玉、33歩成の時に12玉と応じる。(89図
 (89図)以下23金、同角、24桂、(妙手順!)13玉、23と、同玉、32竜、24玉、42角、(90図
 33歩合、(桂合は同じように進めて早い)同竜、15玉、37竜!、24銀合。(91図
 こんな時のために37成香が配置されていたとほ、驚いたね。
 24銀合のところ金合・桂合は16歩、14玉、15香、23玉、33角成迄。
 角合は同角成、同玉に再度42角。

 (91図)以下は収束と言って良いだろう。
 16歩、14玉、24角成、同玉、15銀、13玉。(92図
 14香が不詰なので一瞬考えるが、ここで14銀!、同玉、34竜、13玉。(93図
 最後の最後にこういう妙手が入るとは、作者は狙って創るものなのか、それとも偶然入るものなのか?
 (93図)以下は14香、22玉、23歩、21玉、11香成、同玉、31竜、12玉、22竜まで。初手から数えて五十九手詰である。(詰め上がり図
 改めて検討して思ったのだが、宗看は「作品価値」にこだわるより(本局においては)完全に「解答者との勝負」に出ているのではないか。これだけ盤上の配置が残ってしまうのでは今の時代詰パラに投稿したらボツにされてしまうかもしれない。
 しかし作意手順を並べてみただけでは本局の凄さは決してわからないのだ。序盤数手の信じ難いような捨駒の連続砲火を見よ。全体では59手もかかるが解説を見て頂いたように序の鬼手順に賭けた作者の意気込みは尋常でない。後半もただ流すのではなく高密度の攻防が展開される。
 「傑作」「名作」という言葉よりも、「凄い問題」と言う方がふさわしい気がする。
正解手順
(問題図)
▲41金 △同金 ▲42銀成△同金
▲41金 △同玉 ▲52金 △31玉
▲42金 △同角 ▲21歩成△41玉
▲31と △同玉 ▲22銀 △同玉
▲42飛成△32歩合▲33角 △23玉
▲24金 △12玉 ▲22角成△同玉
▲33歩成△12玉 ▲23金 △同角
▲24桂 △13玉 ▲23と △同玉
▲32竜 △24玉 ▲42角 △33歩合
▲同竜 △15玉 ▲37竜 △24銀合
▲16歩 △14玉 ▲24角成△同玉
▲15銀 △13玉 ▲14銀 △同玉
▲34竜 △13玉 ▲14香 △22玉
▲23歩 △21玉 ▲11香成△同玉
▲31竜 △12玉 ▲22竜
迄五十九手詰。
詰め上がり図

 尚、「作意」では11手目21歩成に同玉、22銀、同玉以下上記手順と同じで57手詰となっているらしい。
 41玉といったんよけて何か早詰がある訳でもないし、現代の感覚では59手解で構わないだろう。

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