詰将棋解析学

記・佐藤喜一郎(1992年入学)
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1.山本民雄・作(詰将棋パラダイスS59年5月号)

論理的難解性において詰将棋史を代表する傑作。構想の深遠さは宗看図式さえ遥かに凌駕している。
3手目58竜の限定移動を主眼とするが、ここではその妙手を成立させる緻密なメカニズムから詰め上がりまでを徹底検証してみる。
まず作者の描いた構図を見てみよう。

初手から
52桂成、同香、64銀、43玉、44歩、同玉、46香、33玉、22銀不成、24玉、23と、同玉、13歩成、24玉、14と、同玉で(H図)。
ここで52香の効きが無ければ58馬と寄って詰む。それを実現するために竜の王手で合駒を強要しておくのだが…
もっとも(H図)を見たところで解図の指針にはなっても解きやすくなるとは思えない。
全ての変化が有機的に連鎖しているからだ。

問題図を(A図)として再掲する。
初手、タテからの王手は63玉と入られてどうにもならないので52桂成と捨てておく。
玉方は出来うる限り香を効かせておくため同香。同金としてまずい事は後の進行を見れば自ずと明らかになるだろう。
3手目、58竜!(1図)が衝撃の限定移動。
57竜でも59竜でも駄目なのである。何故だろうか?その後の進行例を見て違いを明らかにしよう。
(1図)以下54歩、64銀、43玉、44歩、で(2図)。
この問題では、44歩を取るか否かが常に変化の分岐点になる。この時点での持駒に常に留意してほしい。
(2図)以下33玉の場合、22銀不成、32玉、33香、41玉、31香成、51玉、62歩成、同玉、53銀成、71玉、62飛成、81玉、82香で(3図)。
(3図)で92玉とかわすのは91金で簡単。48の馬が遠く93まで効いている。
よって(3図)以下同馬、同竜、同玉、93角、72玉、82金、61玉、67竜(4図)
65合、同竜、同桂、71金、51玉、84角成まで。
(2図)から(3図)への進行中、53銀成に同玉は54竜、同玉、64金、44玉、46香(5図)まで。
(2図)の44歩を同玉と取ったのが(6図)。
47竜と出たくなるが、以下33玉、22銀不成、24玉となった(7図)は竜・馬が膠着状態で全く働かず詰まない。57馬も35桂合で無効。
そこで(6図)では46香と打つが、(8図)
33玉、22銀不成、32玉、33香、41玉、31香成、51玉、62歩成、同玉、53銀成、72玉、62飛成、81玉。(9図)
(3図)と酷似しているが、今度は82に打つ香が無いため詰まない。46で香を一枚消費したためである。
(9図)こそこの作品の謎を解明する鍵になる局面なのでよくよく御明記願いたい。

(8図)に戻ろう。46香、33玉、22銀不成に24玉と逃げた場合はどうなるだろうか。以下、23と、同玉、13歩成、24玉、14と、同玉、47馬となったのが(10図)
一見詰み筋に入ったようだが、実はこれが際どく逃れているのだ。即ち、(10図)以下23玉、24香、同玉、25飛、14玉、27飛、47馬!(11図)玉方83の馬が意外な所で働いて来る。
更に(11図)、飛車に位置が27でなく26なら詰むのだが…。

最初に58竜は限定移動と書いたが、ここまで来て疑いを抱く人も多いのではないかと思う。例えば(6図)で57竜型なら46竜と出る手があって簡単だからだ。
それでは3手目に戻り、58竜に代え57竜としてみよう。(12図)
以下54歩、64銀、43玉(13図)と、同じように進む。
しかしここで44歩は当然同玉とは取ってくれず、33玉。(14図)
(14図)から
22銀不成、32玉、33香、41玉、31香成、51玉、62歩成、同玉、53銀成、71玉、62飛成、81玉。(15図)
今度は(3図)と違い82香が効かない。
(15図)で82香は92玉。57竜型のため93に抜け道があり詰まない。単純な仕掛けだが大きな違いである。
更に疑問が生じるだろう。57竜型が詰まないのなら、3手目58竜(が正解として)に57歩(16図)と中合されたらどうするのか?
その場合は57同竜、54歩、64銀、43玉、44歩、33玉、22銀不成、32玉、33香、41玉、31香成、51玉、62歩成、同玉、53銀成、71玉、62飛成、81玉と(15図)までと同じように追った時に、中合で得た一歩で82歩と打つ。(17図)
以下92玉、91金、93玉、54竜、84歩、94香!(18図)
以下同馬、同歩、同玉、84竜まで。この変化の為の95歩配置だったのだ。
(17図)の82歩を同馬と取られた場合は?
82同竜、同玉に、それでも93角が成立する。(19図)
同玉は87竜。72玉は(4図)と同じように進めれば良い。
この際細かい疑問も解消しておこう。57歩でなく57桂(20図)の中合なら?
この場合81まで玉を追ったとき(17図)の82歩が打てず、かと言って持駒金桂香では詰まないが…。
(20図)からは57同竜、54歩、64銀、43玉、44歩、33玉、22銀不成、32玉、33香、41玉、31香成、51玉、62歩成、同玉に53銀成でなく63銀成とする。
以下71玉に俗に72金。(21図)
清算後は84桂の筋があり詰む。
58竜に57中合の筋は成立しない事がわかった。
57竜型と58竜型の違いを見てきたが御理解頂けただろうか。

それでは3手目59竜はどうだろう。(22図) 59竜型には58竜型に比べ明確な利点がある。
(10図)を振り返って頂きたい。ここで47馬としたために後でその馬を素抜かれて詰まなくなった。59竜型ではこの時47馬ではなく58馬!(23図)と寄る手があるのだ。
(23図)から23玉、24香、同玉、25飛以下の順は馬が無事なので詰み。
すると58竜が限定というのはやはりウソで59竜が正解なのだろうか?
実は今まで触れていなかった手順がある。59竜には単に43玉と逃げられるのだ。(24図)
当然44歩と突くが、33玉は22銀不成の時24玉、32玉のいずれでも持駒に香2本が残っているので詰む。
よって44歩には同玉。そこで66馬と出る。(25図)
55歩合、同馬に35玉!(26図)とかわされた局面が意外に詰まし難い。ここで45馬しかない事に驚かれるのではないだろうか。
(26図)以下45馬、24玉、25歩、15玉、16香、同玉、27馬、同玉で(27図)。
尚、(25図)で55桂合は(27図)までの手順中、25歩のところを16桂で良い。
さて、(27図)と、それを58竜型にした(28図)を比較して頂きたい。
58竜型ではここで29香が効いて詰むが、59竜型の(27図)では何も有効な手が無いのである!29香はもちろん18玉で不詰。
この差が58竜と59竜を決定的に分けているのだ。
(28図)以下の手順を見ておこう。
29香にいったん28歩合と頑張るが、同竜、36玉に27金と俗に打つ。(29図)
以下46玉、37金、56玉、58竜、65玉、67竜、54玉、64竜、43玉、44歩、33玉、22銀不成、32玉、33香、41玉、31香成、51玉、62歩成まで。(30図)
3手目57竜、59竜のいずれも確実に詰まない事がわかった。
と言っ下も58竜以下の変化が解決した訳でもなかった。

(1図)に戻ろう。
整理すると、44歩(2図)の局面で同玉と取られ、46香以下81まで追った時に82に打つ駒が無く不詰。途中24玉とかわされる変化も47馬を素抜かれて詰まないのであった。
この両方の筋を解決するような手段があるのだろうか?
本題に入る前にまた細かい変化を詰ましておこう。
58竜に54銀合は(31図)同竜と切る。同玉、56香、55歩合、同飛、63玉、74銀打。(32図)
この後は72玉、83銀成、同玉、74銀、92玉、94香、81玉、92角、71玉、93馬、61玉、83角成、72歩、52飛成、同金、同香成、同玉、56香、53歩、63銀成、同玉、64金、同玉、75馬、63玉、53馬まで(33図)が一例。
58竜に54桂合は(34図)64銀、43玉、44歩、33玉、22銀不成、32玉、33香、41玉、31香成、51玉、62歩成、同玉、53銀成、72玉、62飛成、81玉、82香、同馬、同竜、同玉、93角、72玉、82金、61玉、71金、51玉、(35図)
として、52成銀、同玉、54竜、53歩、64桂で簡単。
(34図)から64銀、43玉、44歩に同玉は55竜と走り(36図)以下43玉、44香、32玉、33香、41玉、42香成、同玉、44竜、43金、32香成、同玉、43竜、同玉、45飛、44合、33金まで。
本題に戻る。再掲(6図)44歩に同玉と取られた局面である。46香以下81玉まで追った時再掲(9図)82に打つ香がなく詰まないのであった。
そこで、(6図)では53銀不成!と先に捨てておくのが妙手。(38図)
同玉なら75馬と出る。以下64桂合、54竜!同玉、64馬、43玉、44香、33玉、42馬、44玉、36桂まで。(39図)
75馬に43玉は48竜、44桂、同竜、同玉、46香、33玉、42馬。
よって(38図)では同香と応じる。(同金は66馬)
こうして(41図)となった。銀を消去したので81まで追わずとも62歩成でダイレクトに詰みになる。
尚、銀消去を焦って58竜、54歩、64銀、43玉の時にいきなり53銀成とするのは33玉、22銀不成、24玉(40図)で、飛の横効きが通っていないので全然駄目である。
(41図)まで来れば8割方解けたも同然。
(9図)の不詰筋だけでなく、不思議なことに(10図)の不詰筋もこれで解消されているのだ。
と言ってもまだわからない方もいるだろう。
(41図)で46香と打つのは(42図)33玉、22銀不成、24玉、23と、同玉、13歩成、24玉、14と、同玉、47馬、23玉、24香、同玉、25飛、14玉(43図)となり(10図)と何ら変わらないからだ。27飛は47馬と抜かれて不詰。
(41図)では47竜(44図)と出るのが正解。
これも(7図)のように失敗するのでは?と思われるかもしれないが、さにあらず。
33玉に44竜!と豪快に捨てる。(45図)
すぐにわかることだが、58の竜が邪魔駒になっていたのだ。
同玉に46香と打ち替える。(46図)
竜を捨てずに22銀、24玉、57馬は35桂合で詰まない。(47図)
(46図)から33玉、22銀不成、24玉、23と、同玉、13歩成、24玉、14と、同玉に今度は58馬!(48図)
これが竜を消去した効果だ。
玉方はあくまで馬を素抜くために47桂の中合を見せる。(49図)
これを構わず同馬と取り、以下23玉、24香、同玉、25飛、14玉、26桂!、同金、同飛、47馬の局面は(50図)飛車の位置が26なので、以下13銀成、同玉、24金、12玉、23金、11玉、22金まで見事に詰め上がった。
尚、(38図)の53銀不成を入れない形で44竜と捨てても、同玉、46香、33玉、22銀不成、32玉、33香以下、結局(9図)と同じ理屈で詰まない事になる。その辺りの理解がこの作品を解図する上での骨子なのだろう。
如何だっただろうか。深遠なる58竜から、53銀不成、44竜と続く妙手順の高度な論理性を味わって頂ければと思う。
これだけの傑作を看寿賞を取っていないと言う理由だけで埋もれさせてしまうのは詰将棋ファンの怠慢と言うべきだろう。本当に永く語り継いで行きたい作品である。

正解手順
(問題図)
▲52桂成 △同香 ▲58竜 △54歩合
▲64銀  △43玉 ▲44歩 △同玉
▲53銀不成△同香 ▲47竜 △33玉
▲44竜  △同玉 ▲46香 △33玉
▲22銀不成△24玉 ▲23と △同玉
▲13歩成 △24玉 ▲14と △同玉
▲58馬  △47桂 ▲同馬 △23玉
▲24香  △同玉 ▲25飛 △14玉
▲26桂  △同金 ▲同飛 △47馬
▲13銀成 △同玉 ▲24金 △12玉
▲23金  △11玉 ▲22金
迄四十三手詰。
(詰め上がり図)

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